プロローグ/Prologo

”アルテ・エン・アクシオン”は国際水準の造形芸術を 普及させるためのA・M・S・Cのプロジェクトです。 我々は特に日本人アーティストの真価を認め、 その活動に注目をしております。 各作家についてのゲスト評論家との会話を通じて、 作品の理解と知識を深めるための論評を行います。 多くの人に様々な芸術家と作品を効果的に発信するため 今後は映像による解説の手段が不可欠だと考えています。 それは美術批評における自然な進化です。

また、A・M・S・C・ではこのプロジェクトを通じて、 美術施設への作品収蔵についても働きかけています。 新しいテクノロジーを駆使して、日本とヨーロッパとの 知識や文化の交流を促進していかなければなりません。 このプロジェクトのために我々は、 日本人アーチストの選定をすすめています。 選ばれた芸術家それぞれのエピソードが、 視覚芸術の知識を深めるための一助となれば幸いです。

A・M・S・C・スペイン本部 アルフォンソ・ゴンサレス=カレーロ

ゲスト評論家/Critico invitado

ペドロ・フランシスコ・ガルシア

Pedro Francisco Garcia

マドリード自治大学美術史博士。プラド美術館、セラ ルボ美術館、ラサロ・ガルデイアーノ美術館など数多 くの美術館、公的団体の共同研究、共著者。「インウ”エ ステイガシオン・イ・アルテ」古美術技師技術デイレク ター。宗教美術専門家。スペイン、カトリック教会遺 産協力者。数多くの美術専門雑誌に執筆多数。”アン ダント・コン・エル・アルテ”共同デイレクター。

デイレクター/Direccion

アルフォンソ・ゴンザレス=カレーロ

Alfonso Gonza’lez-Calero

[インウ”エステイガシオン・イ・アルテ」及び実験的画 廊「アートルーム」デイレクター。テクニタッサ・   アルテ」技術デイレクター。国立美術作品鑑定協会会   員。バレンシア理工科大学経済エンジニアセンター、   美術品鑑定エンジニア・国際大学マスター取得。国   際美術評論家協会(AICA)会員。スペイン美術評論家   協会(AECA)会員。    

”アルテ・エン・アクシオン”にようこそ。 興味深い芸術家、村上守治の作品を見ていきましょう。 村上は、染色作家の北沢米三郎に師事しました。 染色は、最も難しく複雑なっ工芸の一つです。 スカーフやマフラーといった装飾品の域を超えた  造形美術としての染色は、とても難しい技術を要します。 それゆえに、芸術作品として制作できる作家は 非常に少ないと言えます。 村上はかって東宝や松竹などの舞台衣装を制作。 また1966年には、ピエールカルダンが 彼のデザインを採用したことも特筆すべきです。 日本新工芸展や日本美術展覧会など権威ある展覧会でも 入選を重ねています。 美術書籍「アートメゾン」でも紹介されました。 最初に取り上げる作品「ファンタジー」は、 絹を支持体に染料と銀泥、墨で作成されたもの。 村上は下描きをせず、制作しているようです。 しかし、その結果は偶然に任せるものではありません。 なぜならこうした作品を創造するには才能が必要があり、 事前に計画して準備することが肝要だからです。 新鮮でありながら実に精緻なさくひんですが、 このバランスについてあなたはどうおもいますか?

そうですね、彼は優れたアーテイストであり、 自分が何をすべきかを常に心得ています。 あなたが言うように、染色は非常に難しい芸術です。 しかも絹という繊細なものを扱っています。 また、絹を支持体にする作品は修正ができません。 さらに絹の柔らかな質感のため、作家本人が望むような シャープさや質の高い色彩が出てこないことも多い。 しかし、村上は驚くような作品を創り出しました。

偉大な芸術家は、自らの想像力、感覚、手腕によって、 全く新しい作品を生み出すことがあります。 非常に変化に富んだこの作品の美術感覚は、 まさにフィギュラテイウ”・アートダと言えるでしょう。 この蝶など多様な要素が含まれた造形美術であり、 キャンバス作品以上に絵画としての完成度が高い。

染色作品にこれほど多くの要素を使用することは、 手間がかかる上に、複雑ですね。 では、次に「戯れ」と題した作品を観ていきましょう。 楽しんで制作されたのではないかと思われる作品で、 それが伝わってくるようです。 ただし、作品そのものは非常に複雑で見事です。 技術的観点、つまり絵画的な視点から言及しましょう。 この作品における魚の群れと「戯れ」という題名の 意味について、あなたはどのように考察しましたか? 魚たちは非常に特別な構図で表現され、 活力に満ち溢れているように見えます あなたの評価を聞かせたください。

この作品の構図は2つに分かれています。 シンプルで控えめな色調の上層部は濃淡の変化が豊か。 もう一方のの下層部で村上は、質量や空間との戯れ、 さらには色彩との戯れを見せてくれます。 通常、染色は難易度の高い技法と言いましたが、 染料は予測した色味を出せないことが多く、 作者の意図とは全く違う結果になるからです。 ここで村上は、全ての要素を一つの空間に混在させた 大変興味深い作品を作り上げました。 上段と下段で異なる二つの場面を表現したのです。 何より白、黒、そして青色系統のみの色調で 独創的かつ多様性のある作品に仕上げた点が素晴らしい。

また、村上は「応用美術」の範疇とされる染色を、 「芸術」作品へと高めています。 力強さと感情に満ちた方法で、 彼はそれを実現しています。

この作品は、非常に均整が取れています。 この作品において、魚が存在しない空間は重要なもの。 そして海の底で渦を巻く、積み重なったような 魚たちの姿。構図も色彩も実に完成度の高い作品です。 もう一つの作品「回遊ー2」にも同じことが言えます。 ここでもまた村上は、染色と言う高難度の技術を用いて 素晴らしい多様性に満ちた海底を再現しています。 この作品とこれほどまでに優れた表現について あなたはどのように評価しますか?

村上は完璧な作品を創り上げています。 様々な色彩で形を不明瞭に描いているわけではなく、 魚たち一匹一匹をはっきりと描きわけています。 まるで海の中や、多様な生物が棲息する水槽を 眺めているかのような気分にさせてくれます。 村上は自然、特に海をこよなく愛しているのでしょう。 これもまた完成度の高い作品です。 作者は魚たちに生命力や躍動感を 与えることに成功しています。 また、これまで紹介した他の作品では見られなかった 要素も、ここでは見られます。 黄や赤系統の色が取り入れられているのです。 異なる色彩を取り入れることで多様性が加わりました。 さらに興味深い点は、上部に見える水の動きや、 その他の要素の存在が作品に奥行を与えたことです。 それはまさしく海を旅する、回遊する魚……。

観る者は想像力を働かせ、村上の絵の中を旅するのです。 実に見事な完成度で仕上げられた作品です。 芸術としての質の高さと作者の卓越した技術には 目を見張るものがあり、確かな表現力が存在しています。

そうですね。彼は染色の技術を駆使して 油絵具とアクリル絵の具やアクリル絵の具と同様のの効果を得ています。 又 別の村上作品を見ていきましょう。 この作品はより幻想的な雰囲気を醸し出しています タイトルは『PUPPET』。 これはより換気的でファンステイックな作品です。 換気的かつ示唆に富み、言わば夢のような世界観ですが、 どのように感じますか?

これは新しい、まさにオリジナルテイに溢れた作品です。 村上は空想力で観客を作品に巻き込もうとしています。 ここで描かれているのは、一種のマリオネット。 鑑賞者もまた村上の手と糸で巧みに導かれ、 作品全体の構成を楽しむのです。 この作品の陰影表現は特に素晴らしい 作者は見事にそれを成し遂げています。 何度も述べたように、村上は染色と言う 高度な技術を用いて独創的な作品を作り上げています。 意図せず全く新しいものを創造したのかもしれません 古典的絵画が飾られるようなどんな美術館でも、 どんな展示会でも通用する作品に仕上げました。 この作品は特に独創的です。 日本のみならず世界の名だたるデザイナーが、かって 村上のデザインを採用したのも不思議ではありません。

確かに『PUPPET』の色彩や線は絶妙です。 端正で整然としています。 さて、次の華やかな作品のテーマは、 再びウニや美しい色彩の魚たちに戻ります。 「春寿ぐ」と題した作品です。 この作品を論評するには技法を振り返る必要があります。 カゼインを使用したかのような マットなトーンの表現や繊細な色合い。 絵画的手法を染色に応用するという観点から、 子の芸術家をあなたはどのように評価しますか? 彼がこうした技術を使いこなしていると、私は思います。

もちろん彼は技法をマスターしており、 見事に使いこなしています。 この作品で再び分かりやすい要素がテーマとなりました。 彼の愛する魚が輝きを与えています。 海に差し込む光が、魚のうろこに わずかに反射する様までがみえるようです。 この変化に富んだ構図の作品からは、 現代的であると同時に伝統的な印象も感じます。 伝統工芸作家の村上作品を、この魚たちの 後を辿るように、手本とすることは出来たとしても 完璧に模写することは不可能でしょう。 この独創的な芸術家の作品を前にして、 私は大きな衝撃を受けました。 画家や彫刻家は数多く存在しますが、彼は染色家です。 伝統工芸家としての染色家は古くから存在します。 ただし村上は、従来の染色家の概念を大きく変えました。 彼は一般的かつシンプルな染色という工芸を 崇高な芸術に変えることに成功したのです。

本来は実用的なものである染色を、絵画的表現にまで昇華させるの困難であると私は考えていました。それが実現できている。ペドロさん、村上守治の作品についての興味深い解説をありがとうございました。この章をご覧いただいた皆様にとっても、非常に興味深いものであったかと思います。今後も引き続き素晴らしい日本人芸術家を紹介します。どうもありがとうございました。

ありがとうございました。